定例講義|アマチュアのための投資戦略
本記事は、JPSI定例講義「アマチュアのための投資戦略」の内容を、記事として再構成したものです。
今回は
「別に専業投資家になりたいわけじゃないんだよな…」
「毎日相場を見るなんて無理…」
という人に向けた講義です。
アマチュアが片手間で勝てるほど相場は甘くない、大人しくインデックス投資(SP500やオルカン)しとけ、というのはよく言われる所で、条件付きで僕も同意見です。
では、プロの投資家になりたい人だけが個別株を学ぶべきなのでしょうか?
そんなことはありません!!アマチュアにはアマチュアの戦い方があります!
実際、僕の専門は情報系であり、毎日相場を見れているわけでもありませんが、個別株売買でそれなりの利益を出しています。(最近はNISAで買っていたある銘柄で10倍のリターンを達成しました。)
今回は、アマチュアが取るべき戦略と、そのために知っておくべき最低限の銘柄評価の方法、考え方について僕なりに整理してお話しします!
市場は本当に「常に正しい」のか
SNSがこれだけ発達した現代では、情報は一瞬で拡散されます。ある銘柄に良いニュースが出れば瞬時にネット上で広まり、買い注文が集まる。悪いニュースが出れば、すぐに売り注文が集まります。
こうしてあらゆる情報は瞬時に株価へ織り込まれ、未来についての予想までもが反映される。だとすれば株価は常に、その企業の本質的な価値に対して「適正な価格」に保たれているのではないか。この仮説を「効率的市場仮説」と呼びます。
投資のリターンは、単純化すると次のような式に分解されます。
リターン = β(ベータ)× 市場全体のリターン + α(アルファ)
βは市場の動きにどれだけ乗るかを表す係数で、αは市場の動きでは説明できない超過リターンです。もし効率的市場仮説が完全に成り立っているなら、割安も割高も存在しないので、継続的なαは得られないことになります。
でも、本当にそうでしょうか。
たとえば最近、キオクシアの株価が一ヶ月足らずでほぼ半値になる場面がありました。では、あの1週間でキオクシアという会社の本質的な価値が半分になったのか。おそらく、そうではないはずです。
また、もっと根本的な問題として、効率的市場仮説やその帰結であるインデックス投資には矛盾した構造があります。
市場参加者が効率的市場仮説を信じてインデックス投資に資金を寄せれば寄せるほど、個別銘柄の値付けに参加する人が減り、情報を株価に織り込む力が弱くなる。つまり、インデックス投資を妄信する人が増えるほど市場は非効率になり、インデックス投資の前提そのものが崩れていくのです。
極端なことを言えば、世界中の全員がインデックス投資をしたら、と想像してみてください。市場の価値発見機能は失われますよね?(個別企業の良し悪しを考えて売買する人がいなくなるので。)
兼業投資家の武器
ここからは、いかにαを取るか、という話に移ります。それにあたって、重要な考え方として自分なりのエッジ(優位性)を見つける必要があります。
このエッジ、最終的には人それぞれとなってしまうのですが、兼業投資家や個人投資家という広い単位でもいくつかのエッジがあるのでそれをまず説明します。
機関投資家、とりわけベンチマークを基準に運用するファンドは、常にある程度の資金を市場に投じておく必要があります。いわゆるフルインベストメントです。相場が読めない局面でも、完全に降りるという選択を取りにくい。それに対して個人は、期待値が明らかに高いとき、自信があるときだけ参加できます。自分の専門分野で確信が持てたとき。市場が暴落したとき。それ以外は休んでいていい。
だから、こういう戦略が成り立ちます。基本はインデックス投資などで手堅く運用しておく。そして、例えば自分が仕事や研究で関わっている分野で「これはいける」と確信できるチャンスが来たときだけ、大きく張る。そういうチャンスは、人生に数回は訪れるはずです。株式市場の参加者はおっさんばかりですから、たとえば女子大学生なら、化粧品業界のヒットの兆しには市場の誰よりも早く気づけるかもしれない。それも立派な優位性です。
個人投資家の優位性として、よく挙げられるパターンが2つあります。
1つ目は、機関投資家が買いにくい小型株の先回りです。特に大規模な機関投資家は、時価総額(株価×株数、市場が付けた会社の値段)がおおむね300億円程度ないと、流動性や組入比率の都合でポートフォリオに組み込みにくい。だから、彼らがまだ買いにくい規模のうちに「これから成長するだろう」という銘柄を仕込んでおく。後から機関投資家が参入してくれば、株価はぐっと押し上げられます。
2つ目は、機動的なトレードです。機関投資家は顧客や社内への説明責任、運用上のルールがあるため、個人ほど自由に売買できません。「落ちているお金を素早く拾う」ような短期のトレードは、身軽な個人にこそ向いています。
大学生がやるべき投資
さらに視野を狭めて、大学生が取るべき戦略の話をします。さきほど「基本はインデックスで手堅く」と言いましたが、あれはある程度の資産と収入がある社会人の土台の話。手元に数十万円しかない学生では話が別です。
そもそも、数十万円をS&P500やオルカン(全世界株式)に投資して、何になるのでしょうか。過去実績の年平均で大体7〜8%増えますが、数十万円の7〜8%は数万円です。その数万円のために若いうちから資金を寝かせるくらいなら、留学に行く、旅行に行く、あるいは飲み代に使う(経験に投資する)ほうが、人生単位で見たとき量的にも質的にもよほどリターンが大きいのでは?
それでも投資をやるなら、どうせなら数倍から数十倍になる可能性のある投資をやったほうがいい。もちろんその分リスクはあります。それでも、オルカンを黙々と積み立て続けるのと比べたら、圧倒的に学びがある。その学びは社会に出てから必ずつながりますし、うまくいけば大きくお金が増えるかもしれない。私はそういう投資のやり方をすすめます。
株式投資はプラスサムゲーム?
数倍を狙うと決めたら、次に考えるべきは「対戦相手は誰か」です。
教科書的に言えば、世界経済が成長してある程度インフレが進む前提に立つと、株式市場全体はプラスサムゲームです。市場全体のパイが少しずつ大きくなる。オルカンの積立が成立するのはこの性質のおかげです。
ところが、市場を大きく超えるリターンを狙うとなれば話は変わります。誰かが平均を上回るなら、誰かが平均を下回っている。誰に勝って、誰からお金を得ているのか。このゼロサムゲーム的な視点を持たないと、資産を数倍にするような増やし方はできません。
ポーカーで勝つ一番の方法は、テーブルの中のカモを見つけることです。見つからないなら、カモは自分です。
では、アマチュアがカモにされずに済む土俵はどこか。ひとつの答えが、少資金だからこそできるトレードです。たとえばPTS(私設取引システム。夜間などに取引できる私設市場)は流動性が薄く、大口資金では十分な量を売買しにくい。FXの秒単位のスキャルピングにも、業者が自動提示する価格を相手に、小口だからこそ成立する手法があります。資金量が増えるほど約定条件や取引制限の影響を受けやすくなるため、これも少資金のうちにしかできない戦い方です。
真っ向勝負を避ける
教科書通りにやると、対戦相手はプロになります。
じゃあどうするか。教科書から外れる、という選択肢があります。一例を挙げます。
2025年1月31日、日本製鉄が子会社の山陽特殊製鋼に対してTOB(株式公開買付け)を発表しました。買付価格は1株2,750円。前日終値に対して約41%のプレミアムです。当時は東証の旗振りで、親子上場(親会社と子会社がそろって上場している状態)の解消が相次いでいた時期で、日鉄グループの再編は「いつ来てもおかしくない」と見られていました。
面白いのはここからです。山陽特殊製鋼の決算短信(四半期ごとの決算発表資料)は、いつも13時前後に開示されるのが通例でした。ところがこの日は、13時を過ぎても、15時を過ぎても決算が出ない。日本株には「TOBのような重要発表は、市場が荒れないよう取引終了後に出す」という慣行があります。
これを見て怪しいと思った個人投資家は先回りして取引時間中に買いました。
結果は的中。16時に決算とTOBが同時発表され、買付価格は当日終値を約37%上回る2,750円。株価はその後、数営業日で買付価格近辺まで上昇しました。
説明責任があり、大きな資金を動かしている機関投資家にはこういうトレードは狙いにくい。十分に資金が増えるまでは、こういう邪道トレードを狙うのが良いと個人的に考えています。
レバレッジは悪か
レバレッジ、つまり借金をして投資額を膨らませることには「危険」というイメージがつきまといます。でも、道具として冷静に見てみましょう。
まず前提として、日本の実質金利はマイナスです。物価の上がり方に金利が追いついていないので、お金を借りている側が実質的に得をする構造になっています。ちなみに、日本で一番借金をしているのは日本政府です。
そのうえで、レバレッジは「リスクとリターンの比率を保ったまま、絶対額を調整する道具」だと捉えてください。次の2つのトレードを比べてみます。
- トレードA:2分の1の確率で30%の利益、2分の1の確率で15%の損失
- トレードB:2分の1の確率で10%の利益、2分の1の確率で2%の損失
ここでいうリスクリターン比率は、「取れる利益 ÷ 被る損失」です。Aは30÷15=2(リスク1に対してリターン2)、Bは10÷2=5(リスク1に対してリターン5)。明らかにBのほうが効率がいい。弱点は、値幅が取れないことだけ。そこでBに3倍のレバレッジをかけると、「2分の1で30%の利益、2分の1で6%の損失」になります。リスクリターン比率は5のまま、Aと同じ30%を狙いながら、損失は半分以下(金利は一旦無視します)。「30%の利益が欲しい」「損失はここまでなら許容できる」という絶対的な基準があるなら、その範囲内に収まるようレバレッジで調整すればいいのです。
後半:アマチュアでも必要な基礎知識
ここまで、兼業投資家、大学生の戦い方について話しました。端的に言えば「教科書的な手法でやってもプロに勝てないから、自分に合った、自分にしかできない手法を探すのが良いよね」という話であり、この戦い方においてプロほどの金融知識は不要です。しかし、それでも最低限知っておいた方が良いことはあります。
PL、BS
PL(損益計算書)はフロー、つまり1年間の成績表のようなものです。そこで出た純利益はBS(貸借対照表)の資本の部分に流れ込み、どんどん蓄積されていく。その意味で、BSはストック型のものです。
BSの右側は「何で資金調達をしたか」を表し、左側は「その資金が今、何に変わっているか」——不動産なのか、現金なのか——を表します。
ひとつ、勘違いしやすいポイントがあります。株主資本とは、株主が会社に払い込んだお金に、会社が毎年稼いで内部に残した利益が積み上がったもの。この積み上がった資本は、すべて株主のものです。日本語では「自己資本」と呼ぶので、字面だけ見ると会社自身の持ち物のようですが、英語ではOwners' Equity——所有者、つまり株主の資本です。
のれん=会社の存在意義
BSはあくまで簿価、つまり当時の取得価格で記録されます。一方、上場企業の株価は日々動いています。すると、会社が帳簿上持っている資産よりも、時価総額のほうが大きく評価されるという事態が起こります。これが、PBR(株価純資産倍率)が1倍を超えている状態です。この超過分を「のれん」と呼びます。ブランド力、積み上げてきた信用、効率の良い業務プロセス——帳簿に載らない無形の資産すべてがのれんです(会計のルール上、のれんが帳簿に載るのはM&Aをしたときだけですが、ここでは市場が評価する超過分という広い意味で使います)。
逆にPBRが1倍を割っているのは、持っている資産を毀損していると投資家に評価されている状態です。たとえるなら、人間の体を構成する元素——タンパク質やリン、炭素——をバラバラに分解して換算し、「数万円だから、あなたの価値は数万円です」と言われているようなものです。
会社もまったく同じです。帳簿上の資産を超えた価値、すなわちのれんを創出し続けることこそ、資本主義におけるすべての会社が目指すべき姿です。
時価総額に対する感覚を身につける
ここまで何度か出てきた時価総額とは、その会社を丸ごと買収するのに払う値段と同じ意味です。
たとえばトヨタの時価総額が50兆円だとして、50兆円払ってトヨタを買収したとします。トヨタの年間純利益が5兆円で、仮にその利益が続くなら、10年で買収費用を回収できる。この「時価総額が純利益の何年分か」を表す倍率がPER(株価収益率)です。
ただし、注意点があります。利益の変動が激しいシクリカル銘柄(景気循環に業績が左右される、半導体や海運のような銘柄)をPERで評価しようとすると、読み誤ります。サイクルの底で大赤字、頂点で大黒字を行き来する会社は、その時点のPERを見てもあまり意味がないからです。
こういう場合は、時価総額そのもので考えます。売上に対して時価総額がどのくらいついているか。過去に一番市況が良かったサイクルの頂点で、利益率はどこまで行ったか。そこから逆算すれば、「この会社の時価総額はこれくらいが妥当だろう」というあたりをつけられます。この感覚が持てるようになると、投資において圧倒的に有利になります。
会社が潰れるのは、現金が尽きたとき
ソフトバンクグループの2026年3月期の純利益は5.00兆円。日本企業の過去最高です。では、ソフトバンクの金庫には5兆円の現金が積み上がったのでしょうか。そうはなっていません。投資利益7.29兆円のうち6.73兆円がOpenAI関連、つまり利益の大半は含み益で、現金が入ってきたわけではないからです。
こういうときに見るのが、PL・BSに続く3つ目の書類、キャッシュフロー計算書(CF)です。PLの数字はあくまで会計上のもので、その金額の現金が動いたとは限りませんが、CFは実際に現金がどれだけ動いたかを示します。以下は、ソフトバンクのCFです。
| 区分 | CF | 内訳 |
|---|---|---|
| 営業CF | ▲0.43兆円 | 事業活動による現金収支 |
| 投資CF | ▲4.51兆円 | OpenAIなどへの大型投資 |
| 財務CF | +6.38兆円 | 社債や借入による資金調達 |
| 現金の増減 | +1.65兆円 | 期末残高は5.36兆円へ |
連結営業CFはマイナスで、大型投資を借入や保有資産の売却などで支えている。ヘッドラインだけ見れば「爆益」ですが、実際の現金の動きはかなり違って見えます。
なぜ現金にこだわるのか。会社が潰れるのは、借金を返せなくなったとき、すなわち現金がなくなったときだからです。現金は生命線であり、次の投資の原資でもあります。
EBITDAで「現金を稼ぐ力」を測る
最後に、現金を稼ぐ力を測る指標を紹介します。
工場に設備投資をしたとき、その費用は一度に計上しません。設備の寿命が10年なら、10分の1ずつ毎年の利益から差し引いていきます。これが減価償却です。とはいえ、実際の支払いは最初の時点で終わっているので、その後の10年間、現金が出ていくわけではありません。そこで、営業利益にこの減価償却費を足し戻した指標がEBITDAです。設備投資の影響をいったん外し、事業がどれだけ現金を稼ぐ力を持つかを大まかに見るときに使われます。
EBITDAとセットでよく見られるのが「EV/EBITDA倍率」です。EV(企業価値)とは、時価総額から会社が持つネットキャッシュ(現金から借金を引いた残り)を差し引いたもの。たとえば時価総額100億円の会社が、借金を全部返してもなお20億円の現金を持っているなら、100億円で買収した瞬間に20億円が手に入るので、実質的には80億円で買ったのと同じです。このEVをEBITDAで割れば、投資した資金を実質何年で回収できるかの目安になります。M&Aの現場でよく使われる指標です。
ケーススタディをひとつ。asnovaという、建設現場の足場をレンタルする会社があります。足場は会計上5年で償却しますが、実際には20年、30年と使えます。つまり償却が続く5年間は、PLの見栄えが実態よりずっと悪い。赤字なのでPERでは評価がつけられません。それでも現金はすでに入ってきていて、EV/EBITDA倍率で見ると5倍程度。もしかすると、5年ほど経って償却が終わったとき、急にPLの見栄えが良くなって投資家に評価され始める——そんな展開もあるかもしれません。会計のルールと実態のズレが生む歪みの、典型的な例です。
おわりに
長々と話を聞いていただきありがとうございました。
最後に強調しておきたいこととして、
ここまでの内容のかなりの部分が僕の主観です!!!
教科書的なことを知りたいなら、良質な本、コンテンツが無数にあると思うのでそちらを参照していただけると…
こういう意見もあるのか、程度で参考にできる部分があれば取り入れていただけると幸いです。
SUMMARYこの講義のまとめ
- 効率的市場仮説は完全には成り立たない。個人には「勝てる確信があるときだけ参加できる」という機関投資家にない武器がある。
- 市場平均を大きく超えるリターンを狙うなら「対戦相手は誰か」を考える。小型株の先回りや機動的なトレードなど、プロとの真っ向勝負を避けた土俵を選ぶ。
- 最低限の基礎知識として、PL・BS・CFのつながり、時価総額とPERの感覚、EBITDAなど「現金を稼ぐ力」の見方を押さえる。
本記事には、執筆者個人の経験と見解が含まれます。特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。本文中の数値・事例は講義時点の情報に基づきます。